

OISをオンにすれば三脚撮影でも必ず写真が良くなるわけではなく、機種によってはむしろブレが増幅することがある。
OISとは「Optical Image Stabilization(光学式イメージスタビライゼーション)」の頭文字をとった用語で、日本語では「光学式手ぶれ補正」と呼ばれます。スマートフォンのカメラやデジタル一眼カメラなど、現代のほぼあらゆる撮影機器に搭載されている機能です。
手ぶれとは、シャッターが開いている間にカメラが動いてしまい、撮像センサーに届く光の位置がずれることで起きる現象です。特にシャッタースピードが遅い暗所や、ズームを使った望遠撮影では、ほんの少しの揺れでも写真が大きくぼけてしまいます。OISはこの問題を「光学的」に解決するものです。
具体的な仕組みはシンプルです。カメラ内部のジャイロセンサー(加速度センサー)が手の動きの方向と速度をリアルタイムで検知し、その揺れを打ち消す方向へレンズまたはイメージセンサーをサーボモーターで動かします。つまり「手が右に動けばレンズを左に動かす」という動作を、毎秒何百回もの速さで繰り返しているのです。
光学的に補正するため画質の劣化がありません。これがOISの最大の強みです。
パナソニックはこの技術を「O.I.S.(Optical Image Stabilizer)」と表記し、業界でも早くからビデオカメラへの実用化を進めてきた先駆者のひとつです。ジャイロセンサーで検知した手ぶれをリニアモーターによるレンズ駆動で補正することで、CCDの約90%以上を常に使用でき、補正時でも水平解像度約540本を確保しています。
また、カメラメーカーによってOISの呼び名は異なります。キヤノンは「IS(Image Stabilizer)」、ニコンは「VR(Vibration Reduction)」、ソニーは「OSS(Optical SteadyShot)」、富士フイルムは「OIS」と呼んでいます。名称は異なりますが、基本的な仕組みはほぼ同じです。つまりOISは固有名称ではなく総称として使われることが多い用語です。
参考:パナソニック OIS 用語解説ページ(OISの仕組みと解像度維持の詳細が確認できます)
https://av.jpn.support.panasonic.com/support/term/alphabet/ois.html
OISには大きく2種類の実装方式があります。「レンズ内手ぶれ補正(OIS)」と「ボディ内手ぶれ補正(IBIS:In-Body Image Stabilization)」です。どちらもOIS技術の応用ですが、補正する部位が異なります。
レンズ内OISは、レンズ内部に搭載された補正レンズ群をサーボモーターで動かして補正を行う方式です。スマートフォンのカメラやコンパクトデジカメで主流の方法で、そのレンズを装着したときだけ補正効果が得られます。特定の焦点距離に最適化された補正が可能なため、望遠レンズでの精度が高い傾向があります。
ボディ内補正(IBIS)は、カメラ本体内でイメージセンサーそのものを動かして手ぶれを補正する方式です。OM SYSTEMやソニーのミラーレス一眼などに採用されており、どのレンズを装着してもボディ側で補正が効く点が最大のメリットです。さらにセンサーを上下左右・回転方向の「5軸」で動かせるため、より多方向のブレに対応できます。
5軸補正・7段分以上のモデルが実用性の高い目安です。
最近のハイエンドカメラでは、レンズ内OISとボディ内IBISを同時に働かせる「協調補正(Dual IS)」が採用されています。キヤノンのEOS RシリーズとRFレンズの組み合わせでは最大8段分、パナソニックの「Dual I.S.2」もこの方式で、それぞれが得意な方向を分担して補正することで、単体使用よりも格段に高い補正効果を発揮します。
スマートフォンの世界でも同様の進化があります。Appleは「センサーシフト式OIS」をiPhone 12 Pro Maxから採用し、より広いセンサー可動域での補正を実現しました。Google Pixel 9シリーズもOIS搭載の上にAIによるコンピュテーショナルフォトグラフィーを組み合わせ、ジンバル不要の滑らかな動画撮影を可能にしています。
参考:手ブレ補正(OIS/EIS)の種類比較と選び方(レンズ内・センサーシフトの仕組みを図解)
https://gadget-words.com/glossary/image-stabilization-ois-eis/
カメラや動画仕様欄でよく見かける「EIS」は、OISとは根本的に異なる技術です。EIS(Electronic Image Stabilization)は「電子式手ぶれ補正」と訳され、ソフトウェアによる画像処理で手ぶれを補正します。
EISの仕組みは次のとおりです。カメラが通常より少し広い範囲(例:4K撮影のために5K相当の画角)で映像を記録しておき、フレームごとに前後の画像データを比較・解析してブレの方向を検出し、映像の切り取り位置をリアルタイムでずらすことで安定した映像を生成します。
この方式の最大のデメリットは「画角が狭くなること」と「解像度が下がること」です。補正のために映像の周辺部分をトリミングするため、広角で撮れる範囲が削られてしまいます。例えるなら、A4の用紙で書かれた手紙のうち外枠1cmを切り落とした状態で読んでいるようなもので、内容(映像)は保たれますが、情報量は確実に減ります。
一方、OISは物理的にレンズやセンサーを動かして補正するため、画角も解像度も変化しません。これがOISとEISの本質的な違いです。つまりOISが画質です。
ただし、EISにも利点があります。ハードウェアが不要のためコストが低く、ソフトウェアのアップデートで性能を改善できます。また、非常に激しい動き(ランニング・スポーツ撮影など)ではEISのほうが対応できる範囲が広い場合もあります。
最近の高性能スマートフォンではOISとEISを組み合わせた「ハイブリッド手ぶれ補正」が主流です。OISで大きな揺れを光学的に吸収し、残った細かいブレをEISで仕上げるという二段構えです。4K 60fpsの動画撮影ではこの併用が特に効果的です。これは使えそうです。
| 方式 | 仕組み | 画質への影響 | 主な用途 |
|------|-------|-------------|---------|
| OIS | レンズ・センサーを物理的に動かす | 劣化なし | 写真・動画全般、暗所、望遠 |
| EIS | 映像をソフトウェアでトリミング処理 | 画角縮小・解像度低下あり | 動画、激しい動き |
| ハイブリッド | OIS+EIS併用 | ほぼ劣化なし | ハイエンドスマホ動画 |
「手ぶれ補正は常にオンで問題ない」と思っている人は要注意です。これが冒頭で紹介した意外な事実に直結します。三脚を使って固定した状態でOISをオンにすると、機種・設定によっては逆にブレが発生する場合があります。
なぜそうなるのかというと、OISのセンサーは「完全に静止しているはずなのに動きを検知してしまう」からです。三脚で固定されているとはいえ、ミラーアップ時の振動、風、シャッター機構の微細な振動などは存在します。OISはこれらを「手ぶれ」と誤認識し、補正しようとして却ってレンズを不必要に動かしてしまうことがあります。
OM SYSTEMの公式FAQでは、「三脚使用時は手ぶれ補正をOFFにしてご使用ください」と明記されています。ソニーのαcafeでも「完全に静止している状態でもセンサーが微小なノイズを検知し、ブレているものと誤認識して補正動作を行うことがある」と説明されています。
三脚での長時間露光(夜景・星空・花火撮影など)では特に注意が必要です。シャッタースピードが1秒以上になる場合、OISがオンのまま誤作動すると写真全体がぼんやりとした仕上がりになることがあります。これは高級カメラ・レンズを使っていても起こりうる問題です。
ただし、最新のカメラは三脚を自動検知して補正動作を停止する「三脚検知機能」が搭載されているものも増えています。また、富士フイルムの一部モデルのように「常時ON」でも三脚使用時に問題がないよう設計されたモデルもあります。自分の機種のマニュアルを確認することが原則です。
まとめると、「三脚+長秒露光=OISオフ」が基本です。
なお、スマートフォンの場合も同様で、三脚固定して夜景を長秒露光で撮影する際はカメラアプリ内の手ぶれ補正設定をオフにするか、「プロモード」などでOISを手動管理するのが安全です。
参考:三脚使用時の手ブレ補正ON/OFFについて(OMシステム公式FAQ)
https://digital-faq.jp.omsystem.com/faq/public/app/servlet/qadoc?QID=001202
OISの知識は、カメラやスマートフォンを新しく選ぶ際の費用対効果を高める判断軸になります。ここでは用途別に整理します。
スマートフォンで選ぶ場合、まずメインカメラにOISが搭載されているかをスペック表で確認します。同じ価格帯でもOIS非搭載とOIS搭載では、暗所写真・動画の品質に歴然とした差が出ます。現在はGoogle Pixel 8a(約7万円)、AQUOS sense8(約5万円台)など、ミドルレンジでもOIS搭載モデルが増えています。一方、超低価格帯(3万円以下)のモデルはEISのみの場合が多く、暗所動画が多い人には注意が必要です。
スマホを使って会計書類・レシートの写真を撮ることが多いビジネスパーソンや、SNS・YouTube運営のために動画を撮影する機会がある方は、OIS搭載モデルを選ぶだけで成果物の品質が変わります。これは投資対効果が高い選択です。
ミラーレス一眼カメラで選ぶ場合は、「ボディ内IBIS搭載か否か」が大きな分かれ目です。IBISがボディに搭載されていれば、OIS非搭載の単焦点レンズや古いレンズを使う際にも手ぶれ補正の恩恵が得られます。レンズ選びの自由度が広がります。
OISが付いたレンズとIBIS搭載ボディを組み合わせた「協調補正」が最強の組み合わせです。
修理コストとのトレードオフも頭に入れておく必要があります。OISはレンズやセンサーを物理的に動かす精密機構であるため、落下や強い衝撃に弱い側面があります。スマートフォンのOIS故障はカメラモジュールごとの交換になることが多く、iPhone 14系列で非正規修理でも2万円前後、Apple公式修理では場合によって4万円以上になるケースもあります。スマホ保険や端末補償サービスへの加入は、OIS搭載機でこそ費用対効果の高い選択肢です。
最終的に「どこで・何を撮るか」によって優先度が変わります。日常スナップがメインなら標準的なOISで十分、動画配信や夜景撮影を重視するなら協調補正対応の組み合わせを選ぶ、という基準で考えると判断しやすくなります。OIS対応かどうかを確認するだけでいいです。
参考:OIS/EIS搭載スマホの選び方と実際の画質比較(スマホカメラ比較記事)
https://gadget-words.com/glossary/image-stabilization-ois-eis/
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お金はなんの役に立つ? 経済をめぐる15の疑問 / 原タイトル:A cosa servono i soldi?[本/雑誌] (いざ!探Q) / ピエルドメニコ・バッカラリオ/著 フェデリーコ・タッディア/著 シモーナ・パラヴァーニ=メリンホフ/監修 グッド/絵 吉川明日香/日本版監修 野村雅夫/訳