BEPS行動計画実施状況における各国動向と日本税制対応の実情

BEPS行動計画実施状況における各国動向と日本税制対応の実情

BEPS行動計画実施状況の全体像

BEPS行動計画実施状況の概要
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15の行動計画による段階的実施

2015年10月の最終報告書から2025年まで継続的な実施監視が展開

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国際協調による実効性確保

OECD加盟国とG20諸国による包摂的枠組みでの取り組み推進

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段階的実施からBEPS2.0への発展

第1の柱と第2の柱によるデジタル経済対応が本格化

BEPS行動計画実施の全体スケジュールと現在の進捗

OECDが2013年から本格化させたBEPSプロジェクトは、税源浸食と利益移転への対策として15の行動計画を策定し、2015年10月に最終報告書が公表されました。その後の実施フェーズでは、各国による合意事項の実施状況の継続的なモニタリングが行われており、BEPS包摂的枠組みの下で各作業部会における監視体制が確立されています。
実施状況の特徴として、ミニマムスタンダードとして位置づけられた4つの行動計画(行動5:有害税制、行動6:租税条約の濫用防止、行動13:移転価格文書化、行動14:相互協議)については、全てのBEPS包摂的枠組み参加国による実施が義務付けられています。これらの実施状況は定期的なピアレビューを通じて評価され、実効性の確保が図られています。

 

2025年現在、BEPS2.0と呼ばれる新たな段階に入っており、第1の柱(デジタル経済への課税権再配分)と第2の柱(グローバルミニマム課税)の導入が進んでいます。第2の柱については、日本を含む多くの国で2024年度からの適用が開始されており、実施状況の新たな局面を迎えています。

BEPS行動計画実施における各国の対応状況とピアレビュー結果

各国におけるBEPS行動計画の実施状況は、ピアレビュー制度により厳格に監視されています。特に行動14(相互協議の効果的実施)については、2016年12月からピアレビューが開始され、各国が相互に審査する方法で実施状況の評価が行われています。
このピアレビューは、OECD税務長官会議に設けられた相互協議フォーラムにより、2016年10月に公表された実施枠組みに従って実施されています。評価は「付託事項」と「評価手法」に基づいて行われ、各国の実施状況が客観的に審査される仕組みとなっています。
国際的な実施状況を見ると、OECD非加盟のG20メンバー8カ国(中国、インド、南アフリカ、ブラジル、ロシア、アルゼンチン、サウジアラビア、インドネシア)も積極的に議論に参加しており、グローバルな実施体制が構築されています。
特に注目すべきは、BEPS防止措置実施条約(MLI)の効果です。この多国間条約により、既存の租税条約にBEPS防止措置を一括導入することが可能となり、従来の二国間交渉による時間的制約を大幅に短縮することができました。

日本におけるBEPS行動計画実施状況と税制改正の推移

日本におけるBEPS行動計画の実施状況は段階的かつ包括的に進められています。具体的な実施スケジュールとして、以下の税制改正が行われました:
平成27年度改正では、行動1(電子経済の課税上の課題への対応)として国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税見直しが実施されました。同時に、行動2(ハイブリッド・ミスマッチの無効化)に対応して外国子会社配当益金不算入制度の見直しも行われています。
平成28年度改正では、行動13(多国籍企業情報の報告制度)に対応する移転価格税制に係る文書化制度の整備が実施されました。これにより、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書の三層構造による文書化が義務化されています。
平成29年度改正では、行動3(外国子会社合算税制の強化)として、従来のタックスヘイブン対策税制を抜本的に見直した外国子会社合算税制が導入されました。
平成30年度改正では、行動7(人為的なPE認定回避)への対応として、恒久的施設(PE)の範囲見直しが行われています。
さらに、平成31年1月にはBEPS防止措置実施条約が日本について発効し、複数の租税条約に一括してBEPS防止措置が適用されることとなりました。
2025年現在の最新動向として、BEPS2.0の第1の柱「利益B」に関するFAQが国税庁から公表されており、移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチについて詳細なガイダンスが提供されています。

BEPS行動計画実施におけるデジタル経済対応の課題と革新的解決策

従来のBEPS行動計画では十分に対応できなかったデジタル経済の課題に対して、BEPS2.0による革新的なアプローチが展開されています。デジタル経済化により、物理的な存在を必要としないビジネスモデルが急速に拡大し、従来の国際課税原則では適切な課税が困難な状況が生じています。
第1の柱(Pillar One)の革新性は、従来の物理的拠点ベースの課税から、市場国への課税権再配分という根本的なパラダイムシフトを実現することにあります。売上高200億ユーロ超かつ利益率10%超の巨大多国籍企業を対象として、残余利益の25%程度を市場国に再配分する「Amount A」の仕組みは、国際課税史上画期的な取り組みです。
しかし、2025年時点での実施状況を見ると、Amount Aに関しては多国間条約(MLC)による各国間の合意形成が難航しており、発効時期は不透明な状況が続いています。政治的な調整と各国の国内法整備の複雑さが主な障壁となっています。
一方で、「Amount B」については比較的スムーズに進展しており、移転価格ルールの簡素化により、マーケティング・販売活動の報酬に関する税務の安定性向上が期待されています。
第2の柱(Pillar Two)の実施状況は第1の柱よりも先行しており、グローバルミニマム課税として15%の最低税率が設定されています。日本では2024年度からの適用開始により、対象となる多国籍企業は新しい税務コンプライアンス体制の構築が急務となっています。

BEPS行動計画実施状況における義務的開示制度と透明性向上の効果

BEPS行動計画12として位置づけられる義務的開示制度(MDR:Mandatory Disclosure Rules)は、租税回避スキームの透明性向上において重要な役割を果たしています。この制度は、既に税制度として導入している国々の事例をモジュール化し、各国の実情に応じた導入を可能とする設計となっています。
義務的開示制度の実施状況における特徴は、単一国での租税回避スキームに焦点を当てている点にあります。これにより、多国間にわたる複雑なスキームよりも、まずは各国内で把握可能な範囲からの透明性向上を図る現実的なアプローチが採用されています。
実施効果として注目されるのは、租税回避に関する情報の早期把握が可能となることです。従来の事後的な調査に依存する体制から、スキーム構築段階での情報収集により、より効果的な対策立案が可能となっています。

 

また、行動13(移転価格文書化)との連携により、多国籍企業の税務情報に関する包括的な把握体制が確立されています。マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書による三層構造の文書化と義務的開示制度の組み合わせにより、税務当局の情報収集能力が大幅に向上しています。
2025年現在の実施状況では、各国の制度導入にばらつきがあるものの、EU指令による加盟国への導入義務化など、地域レベルでの統一的な取り組みも進展しており、グローバルな透明性向上に向けた基盤整備が着実に進行しています。

 

これらの取り組みにより、BEPS行動計画の実施状況は単なる税制改正にとどまらず、国際課税における透明性と公平性の根本的な向上を実現する包括的な枠組みとして機能しており、今後の国際税務環境の基盤となる重要な発展を遂げています。