
内縁の夫には相続権が一切認められません。これは日本の民法において、相続権を持つ人は戸籍上の関係でのみ判断されるためです。
法定相続人として認められるのは以下の関係者のみです。
内縁関係は法律上の婚姻関係ではないため、どれほど長期間同居し、夫婦同然の生活を送っていても「配偶者」には該当しません。
特に注意すべき点として、戸籍上の配偶者が存在する場合があります。例えば、離婚協議中で別居している正式な配偶者がいる場合、その配偶者が相続人となり、内縁の夫は一切の権利を得られません。
内縁関係と対比される関係性の相続権は以下の通りです。
関係性 | 相続権の有無 | 備考 |
---|---|---|
内縁の夫 | ❌ なし | 法律上の配偶者ではない |
別居中の配偶者 | ⭕ あり | 離婚が成立していない限り配偶者 |
離婚した元配偶者 | ❌ なし | 離婚により配偶者関係が終了 |
愛人関係 | ❌ なし | 婚姻関係にない |
内縁の夫との間に生まれた子どもの相続権については、認知の有無が決定的な要因となります。認知されていない場合、その子どもは相続人になれませんが、認知があれば法定相続人として権利を得ます。
認知による相続権の変化。
認知なしの場合
認知ありの場合
認知された子どもの相続分に差別はありません。例えば、戸籍上の子どもが1人、認知された内縁の夫の子どもが1人いる場合、それぞれが2分の1ずつの相続分を持ちます。
認知の手続きについて。
なお、内縁の妻については認知手続きは不要です。出生届の提出により、自動的に母子関係が成立するためです。
内縁の夫に財産を渡す方法は主に2つの制度があります。
1. 遺言による遺贈
最も確実な方法は公正証書遺言の作成です。遺言書に「内縁の夫○○に△△を遺贈する」と明記することで、法定相続人でなくても財産を受け取れます。
公正証書遺言の利点。
2. 特別縁故者制度
特別縁故者とは、相続人がいない場合に限り、特別な関係にあった人が財産を受け取れる制度です。
特別縁故者の申立て要件。
申立てに必要な費用と書類。
ただし、特別縁故者として認められた場合、相続税が2割加算される点に注意が必要です。
内縁の夫への遺贈を行う際の最大の注意点は遺留分侵害額請求のリスクです。
遺留分とは、一定の法定相続人に最低限保障された相続分のことで、以下の人が遺留分権利者となります。
例えば、戸籍上の配偶者と子どもがいる状況で、全財産を内縁の夫に遺贈した場合。
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
---|---|---|
戸籍上の配偶者 | 2分の1 | 4分の1 |
子ども | 2分の1 | 4分の1 |
この場合、配偶者と子どもは合計で2分の1の遺留分侵害額請求を行える可能性があります。
遺留分侵害を避けるための対策。
複雑な相続関係にある場合は、弁護士や司法書士などの専門家への相談が不可欠です。
内縁の夫には相続権がない一方で、賃借権については特別な保護が認められています。これは居住の安定を図るための配慮といえます。
建物賃借権の承継
判例では、建物の賃借人が死亡した場合、その内縁の配偶者は賃借権を承継できるとされています。これは以下の理由によります。
承継が認められる条件。
その他の居住権利
内縁の夫が取得できる可能性のある権利。
ただし、これらの権利は法定相続とは異なる性質を持ちます。確実な保護を求める場合は、遺言書で明確に権利を定めておくことが重要です。
賃借権以外の不動産については、所有権の移転は遺言や特別縁故者制度によらなければ実現できません。
内縁関係の相続問題は、法的な権利関係が複雑になりがちです。大切な人に確実に財産を残すためには、早めの準備と専門家への相談が欠かせません。特に遺言書の作成は、内縁関係においては必須の対策といえるでしょう。