
リスクベース監督とは、金融機関が直面するリスクの影響度と蓋然性を基準として、監督資源を効率的に配分する監督手法です。従来のルールベース(詳細な規制)からプリンシプルベース(原則を重視した規制)への転換が図られる中で、金融機関の個性・特性に即した監督が実現されています。
この手法の核となる3つの柱は以下の通りです。
金融庁は、金融機関のリスク管理について信頼水準99%の期待損失を基準とし、それを超える1%をテールリスクとして管理することを求めています。これにより、想定される市場変動に対する証拠金の適正性と、急激な相場変動による損失の資本金カバー能力を評価しています。
統合リスク管理では、リスクアペタイト・フレームワークを中核とした包括的なリスク管理が求められています。このフレームワークは、経営陣が経営戦略を踏まえて進んで受け入れるリスクの水準について、対話・理解・評価するためのグループ内共通の枠組みです。
取締役会の主要な責務として以下が挙げられています:
金融庁の監督指針では、信用リスク管理、市場リスク管理、流動性リスク管理を統合的に管理することが求められており、各金融機関は自己のリスクプロファイルに応じた管理体制を構築する必要があります。
リスクベース監督の実効性を高めるため、ストレステスティングと多様なシナリオ分析が重要な役割を果たしています。これらは単にVaR(バリュー・アット・リスク)に依存するのではなく、複数の定量的・定性的指標を活用した包括的なリスク評価を可能にします。
フォワード・ルッキングな視点を持った監督では、以下の要素が重視されます:
FX業界では、未カバーポジションリスクの管理において、システムによる24時間体制での監視と、リスク管理部門による定期的なモニタリングが実施されています。また、金融先物取引業協会主催のストレステストを毎月実施し、PDCAサイクルを確実に回すことで、ガバナンスの実効性を確保しています。
規制統合アプローチでは、**「リスクベースアプローチ」**が取引モニタリング・フィルタリングの中核を担っています。このアプローチは、個々の顧客に着目する顧客管理の手法と、取引そのものに着目した金融機関における取引状況の分析を統合的に実施します。
金融庁ガイドラインにおけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策では、自己のリスクを特定・評価し、実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講じることが求められています。これは、画一的な規制ではなく、各金融機関の特性に応じたリスク管理を促進する統合的なアプローチです。
プリンシプルベースの監督・規制手法では、政策を通じて達成しようとする結果を基本原則として示し、その結果を達成する手法・プロセスを金融機関に委ねる結果志向の方法が採用されています。これにより、同じ結果を達成するのに複数の手法があることを認め、金融機関の創意工夫を促進しています。
リスクベース監督手法の未来展望として、AI・機械学習技術の活用による監督の高度化が注目されています。従来の統計的手法に加え、ビッグデータ解析とリアルタイム監視システムの融合により、より精緻なリスク予測と早期警戒システムの構築が可能になります。
デジタル通貨時代のリスク管理では、従来の金融リスクに加え、サイバーセキュリティリスクやオペレーショナルリスクの統合管理が重要になります。特に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)や暗号資産の普及に伴い、新たなリスクカテゴリーの監督手法開発が急務となっています。
環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクの統合も、今後のリスクベース監督において重要な要素となります。気候変動リスクや社会的責任投資の観点から、長期的な持続可能性を考慮した監督手法の確立が求められています。
また、レギュラトリーサンドボックス制度の拡充により、イノベーションとリスク管理のバランスを取った監督手法の実証実験が進むことが予想されます。これにより、新たな金融サービスに対する適切な監督体制の確立と、市場の健全な発展の両立が図られることになります。
金融機関においては、リスクカルチャーの醸成と組織全体でのリスク意識の共有が、リスクベース監督手法の実効性を左右する重要な要因となっており、今後もこの分野での継続的な改善が期待されています。