
企業結合における会計処理は、M&Aや合併において企業価値を正確に反映させるために極めて重要な要素です。特にパーチェス法と持分プーリング法は、長らく企業結合会計の中核を成してきた2つの重要な処理方法でした。
パーチェス法は、結合当事企業のうち支配を獲得する「取得企業」を決定し、取得企業の取得原価については支払対価の時価にて算定するとともに、被取得企業の資産・負債については時価により計上する会計処理方法です。一方、持分プーリング法は、すべての結合当事企業の資産、負債及び資本を適正な帳簿価額で引き継ぐ会計処理方法を指します。
両手法の最大の相違点は、資産・負債の評価方法にあります。パーチェス法では被合併会社の資産・負債を「時価」で受け入れ、取得原価と受入純資産額との差額はのれん又は負ののれんとして計上されます。これに対して持分プーリング法では、被取得企業の資産・負債は帳簿価額で受入れられ、のれんや負ののれんは発生しません。
パーチェス法は「購入法」とも呼ばれ、企業結合を事業の一括購入として捉える会計処理方法です。この手法では、統合される会社の資産や債務を公正価値によって評価し、買収される側の企業の純資産と買収金額の差額をのれんとして計上します。
パーチェス法の主要な特徴は以下の通りです。
国際会計基準では、パーチェス法が一般的な会計方法とされており、現在では原則としてこの手法が浸透しています。アメリカの企業結合会計基準においても、持分プーリング法が廃止され、パーチェス法に統一されています。
持分プーリング法は、企業が対等な関係で統合し、資産や負債に関して持分の結合を採用した場合に適用される会計処理手段です。この手法では、どちらの企業も相手の企業を支配する関係にはならず、収益やリスクを互いに共有するために、それらをひとつの報告単位に結合します。
持分プーリング法の適用には、以下の3要件をすべて満たす必要がありました:
これらの要件により、時価総額が概ね対等である企業同士の結合に限り、持分プーリング法の適用が認められていました。
持分プーリング法の主な特徴として、合併先企業の資産や負債を帳簿価格のまま引き継いで計上する点があげられます。この結果、のれん償却の必要がなく、純資産がそのまま引き継がれるメリットがありました。また、パーチェス法と比べて合併後に利益が出やすく、簿外資産も発生しやすいという特徴を持っていました。
持分プーリング法は、会計基準のコンバージェンス(相互に比較可能な会計基準)に関して問題があるとされ、段階的に廃止されました。国際財務報告基準(IFRS)や米国基準では、取得者が不明な企業結合は経済的合理性を欠くとの考えから、持分プーリング法の適用は認められず、パーチェス法に一本化されています。
日本においても、国際会計基準に合わせる形で段階的な変更が行われました。平成20年に「企業結合に関する会計基準」が改正され、持分プーリング法は完全に廃止されました。この改正により、現在では原則的にパーチェス法を採用し、企業結合会計基準において持分プーリング法を制限する方針が取られています。
廃止の背景には、以下のような理由がありました。
両手法の選択は、企業の財務諸表に大きな影響を与えます。特に利益面での影響は顕著であり、経営者の関心事となっていました。
パーチェス法における財務影響。
持分プーリング法における財務影響。
この利益への影響の違いが、経営者が持分プーリング法を選好する理由でもありました。しかし、国際的な会計基準の統一化により、現在ではこのような選択の余地はありません。
持分プーリング法の廃止により、企業実務においては新たな課題が生じました。特に、従来持分プーリング法で処理されていた対等合併案件についても、パーチェス法の適用が必要となったため、取得企業の決定という新たな判断が求められるようになりました。
実務上の主要課題。
対応策の発展。
企業は持分プーリング法廃止に対応するため、以下のような実務上の工夫を行うようになりました。
また、FX取引などの金融商品取引においても、企業結合による新たな事業展開や資本構成の変化が取引戦略に影響を与える場合があるため、会計処理方法の理解は重要な要素となっています。特に、企業の財務諸表分析を基にした投資判断において、のれんの計上状況や償却スケジュールは、将来の利益予測に大きく関わってきます。
持分プーリング法の廃止は、会計基準の国際的統一化という大きな流れの中での必然的な結果でした。現在では、パーチェス法による透明性の高い会計処理が標準となっており、企業結合の経済実態をより適切に反映する財務報告が可能となっています。この変化は、投資家や債権者にとってより信頼性の高い財務情報の提供につながっており、資本市場の健全な発展に寄与していると評価されています。