
みなし配当課税は、法人税法第24条に基づいて導入された制度で、形式上は配当ではないものの、経済的実態として株主への利益還元と判断される所得に対して課税する仕組みです。
この制度の根本的な目的は、不公平な節税を防ぐことにあります。株主が会社から実際に配当金を受け取っていないにもかかわらず、受け取ったものとして税金が課される特徴を持っています。
資本取引におけるみなし配当の重要性は以下の点にあります。
みなし配当の計算における基本公式は次のとおりです。
みなし配当額 = 交付された金銭等の額 - 資本の払戻し分
この計算において、資本の払戻し分は以下の式で算出されます。
資本の払戻し分 = (資本金と資本剰余金の合計)×(保有株式数)÷(発行済み全株式数)
みなし配当課税が発生する主要な資本取引ケースは複数存在し、それぞれ異なる税務上の取扱いが必要です。
自己株式の取得
最も一般的なケースが自己株式の取得です。上場企業が自己株式を取得した場合、株主に支払った金額のうち、資本の払戻し部分を超える金額がみなし配当として認識されます。
自己株式取得におけるみなし配当の特徴。
非適格合併・分割
組織再編における非適格合併や分割型分割でも、みなし配当が発生します。
非適格合併の場合。
非適格分割型分割の場合。
資本剰余金の配当
資本剰余金から行われる配当についても、みなし配当課税の対象となる可能性があります。この場合、資本金等の額を超える部分がみなし配当として取り扱われます。
みなし配当の計算方法は取引の種類によって微妙に異なり、実務において正確な計算が求められます。
取引別の計算方法の詳細
自己株式取得の場合の計算手順。
計算に必要な基礎データ。
税務調整の実務処理
みなし配当が発生すると、会計上と税務上の処理に差異が生じるため、適切な税務調整が必要です:
発行法人側の処理。
株主側の処理(法人の場合)。
持株比率別の益金不算入割合:
株式等の区分 | 持株比率 | 益金不算入割合 |
---|---|---|
完全子法人株式等 | 100% | 100% |
関連法人株式等 | 1/3超〜100% | 100%(負債利子控除あり) |
その他株式等 | 5%超〜1/3以下 | 50% |
非支配株式等 | 5%以下 | 20% |
みなし配当に対する税務処理は、受け取る側が個人か法人かによって大きく異なります。
個人株主の税務処理
個人がみなし配当を受け取った場合、配当所得として所得税が課されます。
上場企業株式の場合。
非上場企業株式の場合。
配当控除の適用可否も重要な検討事項です。上場企業の場合、申告分離課税を選択すると配当控除は適用されませんが、総合課税を選択した場合は配当控除の適用が可能です。
法人株主の税務処理
法人がみなし配当を受け取った場合、受取配当金として処理され、二重課税防止のため益金不算入制度が適用されます。
益金不算入制度の適用における注意点。
特に、みなし配当の中でも「実質的に出資の払戻しに該当する」と判断される場合は、通常の配当とは区別され、益金不算入制度の適用対象外となるケースがあります。
源泉徴収義務と実務対応
みなし配当が発生した場合、発行法人には源泉徴収義務が生じます。
実務上の留意点として、みなし配当の発生タイミングと源泉徴収のタイミングを正確に把握し、適切な事務処理を行うことが重要です。
みなし配当課税を完全に回避することは困難ですが、適切な取引設計により税負担を軽減することが可能です。
適格組織再編の活用
適格要件を満たす組織再編においては、原則としてみなし配当課税が発生しません。
適格要件のポイント。
適格組織再編を活用することで、株主側では課税の繰延べが可能となり、実質的な税負担軽減効果を得られます。
市場取引の活用
上場会社の株式について、証券取引所等での市場取引による売却では、原則としてみなし配当課税は発生しません。これは、市場取引が第三者間取引として位置づけられるためです。
市場取引活用時の注意点。
相続・贈与特例の活用
相続や贈与に関連する特例措置を活用することで、みなし配当課税を回避できる場合があります。
特に事業承継税制などの特例措置との組み合わせにより、次世代への株式移転を税効率的に行うことが可能です。
タックスプランニングの実践的アプローチ
効果的なタックスプランニングには以下の要素が重要です。
実務においては、税理士や公認会計士などの専門家と連携し、個別の事情に応じた最適なストラクチャーを構築することが重要です。
また、みなし配当課税に関する取扱いは複雑で、判断に迷うケースも多いため、事前の税務相談や確認申請の活用も有効な手段となります。
さらに、近年の税制改正により、利益積立金額の資本組入れが行われた場合のみなし配当課税は廃止されるなど、制度の見直しも継続的に行われているため、最新の情報収集と対応が不可欠です。