
関連者負債支払利子とは、法人が関連法人等に対して支払う借入金利子およびこれに準ずる費用を指します。この制度の対象となる「負債の利子」には、借入金、社債その他の負債の利子のほか、支払う手形の割引料、リース取引によるリース資産の引渡しを受けたことにより支払うべき対価の額(1,000万円未満のものを除く)に含まれる利息相当額などが含まれます。
具体的には以下の項目が該当します。
ただし、連結完全支配関係がある他の連結法人に支払うものは除外されます。これは、完全支配関係にある法人間では、支払利子も受取利子も同一グループ内で相殺されるためです。
過大支払利子税制は、平成24年度税制改正により創設された制度で、企業グループ内での関連者間において所得金額に比して過大な利子を支払うことを通じた租税回避を防止することを目的としています。
この制度の核となる計算式は以下の通りです。
関連者純支払利子等の額 = 関連者支払利子等の額 − 控除対象受取利子等の額
制度適用の判定には「固定比率」が用いられ、以下の算式で計算されます。
固定比率 = 関連者純支払利子等の額 ÷ EBITDA相当額 × 100
この固定比率が20%を超える場合、超過部分について損金算入が制限されます。ただし、「安全港ルール」として、関連者純支払利子等の額が1,000万円以下の場合は適用除外となります。
制度の特徴として、以下の点が重要です。
FX取引を行う個人投資家や法人にとって、関連者負債支払利子の理解は重要な税務リスク管理の要素となります。特に、海外関連法人との間で資金のやり取りがある場合、以下の点に注意が必要です。
個人投資家への影響:
FX取引で利益が出た場合、確定申告が必要になることがあります。関連者からの借入金でFX投資を行った場合、支払利子の取扱いについて慎重な検討が必要です。通常、個人の投資活動に関する借入金利子は必要経費として認められませんが、事業所得として申告する場合には経費計上の可能性があります。
法人の場合:
関連法人からの借入金でFX投資や外貨建て取引を行う法人では、過大支払利子税制の適用を受ける可能性があります。特に以下のケースで注意が必要です。
実務上の対応策:
関連法人株式等に係る受取配当等については、特別な益金不算入制度が適用されますが、この際に支払った負債利子の控除が行われます。この制度は、借入金により株式を取得した場合の不合理な結果を防ぐために設けられています。
控除の仕組み:
受取配当等の益金不算入額の計算において、以下の算式が用いられます:
益金不算入額 = 配当等の額 − (負債利子の額 × 関連法人株式等の帳簿価額 ÷ 総資産の帳簿価額)
この算式により、総資産のうち関連法人株式等の占める割合に応じて、負債利子の一部を配当等の額から控除することで、適正な課税を実現しています。
控除対象となる負債利子:
除外されるもの:
この制度により、配当所得の非課税措置と支払利子の損金算入による二重の税務メリットを防止し、税制の公平性を確保しています。
関連者負債支払利子の問題は、単なる国内税制の問題を超えて、国際的な税源浸食・利益移転(BEPS)対策の中核を成しています。この分野では、従来の税務常識を覆すような新しい視点が重要になってきています。
リバースハイブリッド構造の活用阻止:
近年注目されているのが、支払国では負債として扱われ損金算入されるが、受取国では出資として扱われ益金不算入となる「リバースハイブリッド構造」への対応です。この構造では、同一の支払いが両国で異なる性格づけを受けることで、グローバルでの税負担が著しく軽減されます。
デジタル経済時代の新しい利子概念:
従来の「利子」概念を超えて、デジタル経済における新しい形態の支払いが問題となっています。
行動経済学的アプローチ:
税務当局は、企業の意思決定プロセスに着目した新しい分析手法を導入しています。関連者負債の設定において、以下の要素が重視されます。
将来の制度改正動向:
OECD諸国では、更なる制度強化が検討されており、日本でも以下の改正が予想されます。
これらの動向を踏まえ、関連者負債支払利子に関する税務戦略は、単年度の最適化ではなく、中長期的な視点での設計が不可欠となっています。特にFX取引や国際的な金融取引を行う企業においては、これらの制度変更が事業戦略に与える影響を慎重に評価し、適切な対応策を講じることが求められます。