
重要決済システムとは、国内の金融システムの安定性に重大な影響を与える可能性がある決済システムを指します。金融庁では、電子決済等代行業について、システムリスクと利用者保護を主要な監督の焦点として位置付けています。
対象となるシステムは以下の要素で判断されます。
特に、総資産500億ドル以上の銀行持株会社は自動的にシステム上重要な金融会社として分類され、厳格なプルーデンス規制の対象となります。これには①リスクベースの自己資本規制およびレバレッジの制限、②流動性規制、③統合的リスク管理などが含まれます。
日本においても、システム上重要な決済システムを運営する事業者には、通常の金融機関よりも高度な監督基準が適用されています。これは国際的な金融システム安定化の取り組みの一環として実施されているものです。
監督指針の体系は、「検査・監督基本方針」と「監督指針」の2層構造で構成されています。これらの指針は、金融機関のシステムリスク管理態勢を評価し、利用者保護を確保するための具体的な基準を提供しています。
監督の基本方針。
電子決済等代行業の監督においては、利用者保護を図る観点から、主要なリスクにフォーカスし、業容拡大に伴う体制の充実に向けた取組についてモニタリングを実施しています。
具体的な監督手法。
システム障害等が発生した場合、事業者は直ちに事実を当局宛てに報告することが求められ、復旧時や原因解明時にも改めて報告が必要です。特に社会的影響の大きいシステム障害については、迅速な原因解明と復旧が要請されます。
国際的な監督基準との整合性確保は、重要決済システム監督の核心部分です。BIS(国際決済銀行)の支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)が策定した「証券決済システムのための勧告」は、証券決済システムが安全性および効率性を改善するために満たすべき最低基準を明らかにした19の勧告で構成されています。
国際基準の主要要素。
これらの勧告は、国内およびグローバルな金融のインフラストラクチャーの構成要素として益々重要になってきている証券決済システムに対する基準として策定されました。日本の監督当局も、これらの国際基準を参考として国内の監督指針を整備しています。
決済システムに関する国際基準設定主体であるCPMI(市場・支払決済システム委員会)は、決済システムの重要性を判断する基準を提示しており、これにはステーブルコインのシステム上の重要性に関する判断基準も含まれています。
金融機関は、これらの国際基準に準拠したシステム運営を行うことで、グローバルな金融システムにおける信頼性を確保し、国境を越えた取引における安全性を担保することが求められています。
セキュリティ対策は重要決済システムの監督基準において最も重要な要素の一つです。キャッシュカードやATMシステムについては、そのセキュリティ・レベルを一定の基準に基づき評価し、当該評価を踏まえて一定のセキュリティ・レベルを維持することが求められています。
主要なセキュリティ要件。
クレジットカードシステムのセキュリティ対策については、「クレジットカード・セキュリティガイドライン」が実務上の指針として位置付けられており、漏えい防止のための基準を満たすことが監督の基本方針となっています。
外部委託先への対応も重要な監督項目です。システムに係る外部委託業務について、外部委託先における適切な業務運営が懸念される場合、電子決済等代行業者の管理態勢に問題が認められるときは、必要に応じて報告を求め、重大な問題があると認められる場合は業務改善命令が発出される可能性があります。
特に外部委託先が複数の場合、管理業務が複雑化することから、より綿密なリスク管理が要求されています。二段階以上の委託を含む外部委託業務については、リスク管理が適切に行われているかの確認が重要なポイントとなっています。
近年の重要決済システム監督では、フィンテックの進展とデジタル化の加速に対応した新たな監督手法が注目されています。特に、従来の画一的な監督から、事業者の特性に応じたテーラーメード型の監督へのシフトが進んでいます。
最新の監督トレンド。
システム上重要な支払・清算・決済の監督においては、システミック・リスク・レギュレーターの設置や、システム上重要な金融会社に対するFRBの厳格な監督体制の確立など、米国のドッド=フランク法の動向が世界的に注目されています。
日本においても、重要インフラにおける情報セキュリティ確保の観点から、重要インフラ事業者等に対する安全基準等の策定指針が整備されており、重要インフラサービスを安全かつ持続的に提供するという社会的責任を明確化しています。
AIやビッグデータ活用による高度な不正検知システムの導入も進んでおり、マネー・ローンダリングや疑わしい取引を常時検出・分析・監視する体制の構築が重要視されています。これらの技術革新により、より精密で効果的な監督が可能となってきています。
さらに、財務報告に係るIT統制においても、システム管理基準の追補版が策定され、IT全般統制の不備が財務報告の重要な事項に与える影響についても詳細な指針が示されています。これにより、金融機関のガバナンス体制全体を包括的に監督する枠組みが整備されています。