
法定相続分と遺留分では、権利を有する相続人の範囲に明確な違いがあります。
法定相続分の権利者
法定相続分は、上記すべての法定相続人に認められています。相続順位があり、先順位の相続人が存在する場合、後順位の者には相続権が発生しません。
遺留分の権利者
遺留分の最も重要な特徴は、兄弟姉妹には一切認められていない点です。これは遺留分が「被相続人に養われていた人の生活を保障するための制度」であるためです。
つまり、被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合、法定相続分はあっても遺留分は主張できません。この違いは相続実務で非常に重要なポイントとなります。
法定相続分と遺留分では、相続人の組み合わせによって計算される割合が大きく異なります。
法定相続分の割合
相続人の組み合わせ | 配偶者 | その他の相続人 |
---|---|---|
配偶者と子 | 1/2 | 子全体で1/2 |
配偶者と直系尊属 | 2/3 | 直系尊属全体で1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹全体で1/4 |
配偶者のみ | 全額 | - |
遺留分の割合
遺留分は「全体の遺留分」と「個別の遺留分」に分けて計算します。
各相続人の遺留分は、全体の遺留分を法定相続分の割合で分割して算出します。
具体的な計算例(相続財産3000万円の場合)
配偶者と子2人が相続人のケース。
この計算からわかるように、遺留分は法定相続分の約半分の金額になることが一般的です。
法定相続分と遺留分では、実際に問題となる相続の場面が全く異なります。
法定相続分が重要となる場面
法定相続分は主に以下の状況で基準として使用されます。
遺産分割協議では法定相続分が基準となりますが、相続人全員の合意があれば異なる分割も可能です。実際の相続実務では、高齢の配偶者の生活保障のために配偶者がすべての財産を取得するケースも多く見られます。
遺留分が重要となる場面
遺留分は以下のような状況で権利行使されます。
遺留分侵害額請求は、侵害を知った時から1年以内に行う必要があります。また、相続開始から10年が経過すると請求権が消滅する点も重要です。
実務での注意点
意外に知られていない事実として、遺留分の権利があっても自動的に財産がもらえるわけではありません。権利者が積極的に「遺留分侵害額請求」を行って初めて効力を発揮します。
法定相続分と遺留分では、計算に含まれる財産の範囲が大きく異なります。
法定相続分の対象財産
法定相続分で分割する財産は、基本的に被相続人の相続開始時の財産です。
これらの財産から債務を差し引いた純財産が遺産分割の対象となります。
遺留分の対象財産
遺留分の計算基礎となる財産は、より広範囲に及びます。
この違いは実務上非常に重要です。例えば、被相続人が生前に長男に2000万円を贈与し、相続開始時の財産が1000万円しかない場合。
このため、生前贈与があるケースでは遺留分の方が大きな金額になる可能性があります。
特別受益と遺留分
特別受益に該当する生前贈与の具体例。
これらの贈与は遺留分計算で相続財産に加算され、請求額が増加する要因となります。
法定相続分と遺留分では、権利行使の期限や手続き方法に大きな違いがあります。
法定相続分の時効
法定相続分自体に時効はありませんが、関連する手続きには期限があります。
遺留分の時効
遺留分侵害額請求権には明確な時効があります。
この「遺留分侵害を知った時」とは、単に相続開始を知っただけでなく、具体的な遺言内容や贈与の事実を知った時点を指します。
遺留分侵害額請求の手続き
まずは相手方に対して内容証明郵便で請求を行います。この時点で時効が中断されます。
当事者間での話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停でも解決しない場合は、地方裁判所に訴訟を提起します。
請求額の計算方法
遺留分侵害額の計算は複雑で、以下の計算式で求められます。
遺留分侵害額 = 遺留分額 - 遺留分権利者の特別受益額 - 遺留分権利者が取得した相続財産額 + 遺留分権利者が承継した相続債務額
実務上の注意点
意外に知られていない重要なポイントとして、2019年の民法改正により、遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求に変更されました。これにより。
この改正により、遺留分をめぐる紛争解決がより現実的になりました。
相続における法定相続分と遺留分の違いを正しく理解することで、相続トラブルの予防と適切な対応が可能になります。特に遺言書を作成する際や、生前贈与を検討する際には、これらの制度を十分に考慮した計画を立てることが重要です。