
抱合せ販売規制は、独占禁止法第19条で禁止される「不公正な取引方法」の一つとして位置付けられており、公正取引委員会が定める一般指定第10項で具体的に規制されています。この規制が適用される範囲は、以下の法的要件を満たす取引に限定されています。
まず、独占禁止法における抱合せ販売規制の禁止範囲を理解するためには、一般指定第10項の条文内容を把握することが重要です。同項では「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること」と定められています。
この規制における「不当性」の判断は、従たる商品について市場閉鎖効果が生じる場合に認定されます。市場閉鎖効果とは、既存の競争者の事業活動を阻害したり、新規参入の障壁を高めたりする状況を指しており、これによって公正な競争環境が歪められることが問題視されています。
📌 規制適用の具体的範囲
抱合せ販売が独占禁止法違反となるかどうかは、三つの主要な要件を総合的に検討して判断されます。これらの要件すべてが満たされた場合に、規制の禁止範囲に該当することになります。
第一要件:別個商品性
主たる商品と従たる商品が「別個の商品」であることが必要です。判断は、それぞれの商品の需要の有無、機能・効用の違い、取引の実情などを総合的に考慮して行われます。例えば、カメラ付き携帯電話機のように組み合わせることで新たな機能・価値が生まれる場合は、別個の商品とは評価されにくいとされています。
第二要件:強制性
顧客が主たる商品を購入する条件として、従たる商品の購入を事実上余儀なくされる「強制」の事実が必要です。明示的な要求だけでなく、単品購入を著しく不利にする価格設定や納期設定なども実質的な強制と評価される可能性があります。
第三要件:不当性
その行為が「不当」でなければ規制対象となりません。主に、従たる商品の市場における競争者の事業活動を困難にさせたり、新規参入を妨げたりするなどの「市場閉鎖効果」を生じさせるか否かが判断基準となります。
🔍 判断要素の詳細
市場閉鎖効果は、抱合せ販売規制の禁止範囲を決定する最も重要な要素の一つです。この効果が認定されるかどうかによって、同じセット販売であっても適法か違法かが分かれることになります。
公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」では、ある商品の市場における有力な事業者が、取引相手方に対して当該商品の供給に併せて他の商品を購入させることによって、従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には違法となると明記されています。
市場閉鎖効果の判断において考慮される要素は多岐にわたります。抱合せ販売を行う事業者の市場における地位、行為の期間や対象範囲、従たる商品の市場状況、競争者の状況などを総合的に考慮して判断されます。特に、主たる商品市場でのシェアが高い事業者が行う抱合せ販売は、より厳格に審査される傾向があります。
また、市場閉鎖効果は実際に競争が制限された結果が生じていなくても、「おそれ」があれば違反と判断される可能性があります。これは、独占禁止法が競争環境の維持・促進を重視していることの表れといえます。
⚠️ 市場閉鎖効果のリスク要因
抱合せ販売規制の禁止範囲を具体的に理解するために、過去の違反事例と適法とされた事例を比較検討することが重要です。最も有名な違反事例として「ドラゴンクエストIV事件」があります。
違法とされた事例:ドラゴンクエストIV事件
平成元年頃、ゲームソフトのドラゴンクエストIVが大流行し、300万台を売り上げる社会現象となっていました。卸売業者H社は、このドラゴンクエストIVを小売業者に販売する際に、売れ残って在庫となっていたゲームソフトを抱き合わせて販売し、売れ残り在庫を一掃しようとしました。公正取引委員会は、これを典型的な抱き合わせ販売として排除措置命令を発出しました。
適法とされた事例:鉄道電子マネー事例
一方、鉄道事業者による駅ビルテナントに対する電子マネー加盟店契約義務付けは、抱き合わせ販売に該当しないと判断されています。公正取引委員会は、他の有力な鉄道会社が複数存在し、他の駅や駅ビルで別の電子マネーの使用が禁止されておらず、併用も許可されていたことを理由に適法と判断しました。
これらの事例から、抱合せ販売規制の禁止範囲は、事業者の市場地位、代替手段の有無、競合への影響度合いなどを総合的に考慮して決定されることがわかります。
📊 事例比較のポイント
抱合せ販売規制に違反した場合、企業は深刻なリスクに直面することになります。独占禁止法違反の制裁措置は年々厳格化されており、企業経営に与える影響は極めて大きくなっています。
排除措置命令のリスク
公正取引委員会は違反事業者に対して排除措置命令を発出します。具体的には、抱き合わせ販売の中止、再発防止のための社内体制整備、従業員への法令遵守教育の実施などが命じられます。この命令は公表されるため、企業の信用失墜につながる重大なリスクとなります。
課徴金制度の適用
抱き合わせ販売が不公正な取引方法として認定された場合、直接的な課徴金の対象にはなりませんが、排除型私的独占として認定されれば課徴金が課される可能性があります。また、将来的な制度改正により課徴金の適用範囲が拡大される可能性も考慮すべきです。
企業実務において特に注意すべき範囲は、主力商品やサービスでの市場シェアが高い場合です。このような企業が複数商品のセット販売を行う際は、より慎重な法的検討が必要になります。
🛡️ リスク回避のための実務対応
また、判断に迷う限界事例では、事前に公正取引委員会への相談制度を活用することが推奨されています。鉄道電子マネー事例のように、企業が事前相談を行うことで法的リスクを回避できた実例もあります。
特にFX業界など金融サービス分野では、複数のサービスを組み合わせた商品設計が一般的であるため、抱合せ販売規制の禁止範囲を正確に理解し、適切なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。顧客の利便性向上と法令遵守のバランスを取りながら、持続可能なビジネスモデルを構築していく必要があります。