
デジタル資産カストディ規制の根幹となる法的基盤は、2020年5月に施行された改正資金決済法によって形成されました。この法改正により、従来は規制対象外だった「他人のために暗号資産の管理をすること」、いわゆるカストディ業務が暗号資産交換業として規制対象に追加されました。
カストディ事業者には以下の主要保管要件が課されています。
金融庁の見解では、事業者が秘密鍵の一部のみを保有し、単独では資産移転ができない場合は「暗号資産の管理」に該当せず、規制対象外となります。これにより、マルチシグウォレットなどの技術的解決策が重要性を増しています。
国への登録プロセスは非常に厳格で、質問票提出後、役員ヒアリング、書面審査、訪問審査を経て約6ヶ月を要します。求められるセキュリティ水準は極めて高く、多くのカストディ事業者が規制対応の困難さから事業撤退を余儀なくされました。
世界各国でデジタル資産カストディ規制が急速に整備されており、保管要件の国際的な標準化が進んでいます。
EU MiCA規制では、2026年までにデジタル資産を保有する銀行に対して以下の要件を設定。
米国では、SECが顧客のために保管されている暗号資産について、資格のあるカストディアンによる管理を義務付けています。FRB・FDIC・OCCは共同で対応指針を発表し、以下の要件を明確化:
これらの規制により、適格カストディアンの要件が厳格化され、認可を受けた金融機関による管理が必須となっています。機関投資家向けの暗号資産保管では、従来の証券カストディと同等の規制水準が求められています。
デジタル資産カストディにおける技術的保管要件は、従来の金融資産とは根本的に異なる特性を持ちます。最も重要な要素は秘密鍵の管理で、これがデジタル資産の所有権を証明する唯一の手段となります。
主要な技術的保管方式。
セキュリティ強化策では、Vaultodyなどの欧州カストディアンがMPCを中心としたプラットフォームを構築し、「高度なポリシールール、詳細なアクセス制御、リアルタイムレポーティング」を実現しています。ニューヨークメロン銀行のような大手金融機関も、FireblocksなどのMPCベースプロバイダーと提携し、デジタル資産保管サービスを展開しています。
リスク軽減措置として、ホットウォレット(オンライン接続された保管)で管理する暗号資産については、同種・同量の履行保証暗号資産の保有が義務付けられています。これにより、ハッキング等による損失リスクに対する保険的機能を果たしています。
デジタル資産カストディ事業者を選定する際の保管要件は、規制遵守状況と技術的能力の両面から評価する必要があります。
規制遵守の確認ポイント。
技術的能力の評価基準。
意外なことに、サードパーティカストディの活用が規制対応において有効な戦略となっています。確立されたカストディプロバイダーとの提携により、銀行は多くの組み込みコンプライアンス機能を獲得でき、自作システムの説明責任から解放されます。
選定時の注意点として、事業者が秘密鍵の一部のみを保有し、単独では資産移転できない仕組みを採用している場合、規制対象外となる可能性があります。これは一見リスク軽減に見えますが、規制の保護も受けられないため、慎重な検討が必要です。
FX取引を行う投資家がデジタル資産カストディを利用する際の実践的保管要件は、従来の外国為替取引とは大きく異なる特性を理解することから始まります。
FX取引者特有の考慮事項。
実務上の保管要件チェックリスト。
✅ カストディ事業者の金融庁登録状況確認
✅ 分別管理方式の詳細確認(顧客資産保護の具体的仕組み)
✅ コールドウォレット比率の確認(通常95%以上がベストプラクティス)
✅ 保険加入額と補償範囲の確認
✅ 取引手数料体系の透明性
✅ 出金制限や時間制約の確認
隠れたリスクポイントとして、多くのFX取引者が見落とすのがカストディ事業者の破綻リスクです。優先弁済権があるとはいえ、資産回収に時間がかかる可能性があります。そのため、複数カストディの分散利用やセルフカストディとの併用も検討すべき戦略です。
興味深いことに、DeFi(分散型金融)プロトコルを活用したカストディサービスも登場しており、従来の中央集権型とは異なるリスク・リターン特性を持ちます。しかし、これらは現行の日本の規制枠組みでは位置づけが不明確なため、投資判断には慎重さが求められます。arxiv
カストディサービスに関する権威的な情報源として参考になるリンク。
金融庁公式サイト - 暗号資産交換業者の登録状況や最新規制情報
Coincheck - カストディ業務の規制について詳細な解説