
ボルカー・ルールにおける適用範囲の中核となるのが、「銀行エンティティ(Banking Entity)」の定義です。この定義により、規制対象となる金融機関が決定されます。
銀行エンティティとして定義されるのは以下の機関です。
特に重要なのは、子会社・関連会社の判定基準です。原則として議決権の25%以上を直接的・間接的に保有するかどうかで判定されるため、財務報告上の子会社・関連会社の範囲と異なる点に留意が必要です。
この定義により、米国に銀行業を営む現地法人や支店を有する金融機関の傘下にある証券会社、資産運用会社もBEとして当規制の対象になります。
ボルカー・ルールの適用範囲において最も重要な特徴の一つが、その強力な域外適用原則です。銀行エンティティに該当する日本の金融機関は、日本国内の業務を含めて法人全体に適用されるのが原則となっています。
具体的には、米国に支店等の営業拠点を有する日本の大手銀行や地方銀行は、ボルカー・ルールにおける銀行エンティティの定義に該当することから、以下の影響を受けます。
📊 適用範囲の詳細
この域外適用により、日本の金融機関は米国内での業務に限らず、グローバルな事業活動全体でボルカー・ルールの遵守が求められることになります。
ただし実際には、後述するSOTUS要件など、外国金融機関向けの適用除外規定が設けられており、これらを活用することで実務上の負担軽減が図られています。
ボルカー・ルールには、外国金融機関の負担を軽減するための重要な適用除外規定が設けられています。その中核となるのが「SOTUS要件」と呼ばれる仕組みです。
SOTUS要件の詳細
SOTUS(Solely Outside of the United States)要件とは、以下の条件を満たす取引について適用除外とする規定です。
🔹 地理的要件
🔹 2019年改正による緩和措置
改正前は米国に所在する職員が取引に関与した場合、適用除外の対象外となっていましたが、2019年の改正により要件が緩和・明確化されました。これにより、米国に所在する職員が取引に一定程度関与した場合でも適用除外に依拠できるようになりました。
その他の適用除外規定
これらの適用除外により、日本の金融機関は米国外での通常の業務については、一定の条件下でボルカー・ルールの適用を回避できる仕組みが整備されています。
2019年10月に決定されたボルカー・ルールの改正は、適用範囲に関して重要な変更をもたらしました。この改正は、規制の原則と目的を維持しつつ、実務上の負担軽減を図ることを目的としています。
改正の主要ポイント
🏦 規模別分類の導入
銀行エンティティが取引資産・負債の規模に応じて3段階に分類され、中規模・小規模の銀行法人については遵守プログラムの要件などが軽減されました。
外国金融機関の場合、米国子会社および米国内支店等の取引資産・負債の合計に基づき決定されるため、本店で記帳する取引が多い日本の金融機関は、中規模または小規模に分類される可能性があります。
📈 遵守負担の軽減措置
日本の金融機関への具体的影響
改正により、以下の点で業務の円滑化が期待されています。
ただし、取引資産・負債による分類にかかわらず、ボルカー・ルールの実体的遵守義務は変わらないため、各金融機関は業務内容に応じた慎重な対応が必要です。
ボルカー・ルールの適用範囲を理解する上で、実務担当者が見落としがちな重要な視点があります。それは、適用範囲の判定が動的に変化する可能性という点です。
動的変化の要因
🔄 持株比率の変動による影響
銀行エンティティの判定基準である25%基準は固定的ではありません。M&Aや株式の売買により持株比率が変動すると、それまで適用対象外だった関連会社が突然規制対象となる可能性があります。
💼 事業構造変更のリスク
実務上の対応策
📋 継続的モニタリング体制
適用範囲の変化を早期に察知するため、以下の体制構築が重要です。
🔍 グレーゾーンへの対応
実務では、適用範囲の境界線上にある取引への対応が課題となります。
このような動的な視点を持つことで、ボルカー・ルールの適用範囲に関するリスクを効果的に管理し、予期しない規制違反を防ぐことができます。