
UPI(Unique Product Identifier)商品識別子は、店頭デリバティブ取引の透明性向上を目的として導入される国際的な識別コードです。2008年の世界金融危機を受けたG20ピッツバーグ・サミットでの合意に基づき、OTCデリバティブ商品を一意に特定し、データ集約を促進することで市場の透明性を高めることが主な目的となっています。
この制度の導入により、複数のコード体系が併存することで生じる重複管理の問題を解決し、データ集約やシステム対応コストの削減が期待されています。UPIは統一的かつ唯一の商品識別子として機能するよう設計されており、「Uniform(統一)」および「Unique(固有)」が重要な基準として位置付けられています。
💡 ポイント: UPIの付与により、各国の規制要件の国際的調和が図られ、金融機関のオペレーション効率化に寄与します。
UPI付与基準は、金融安定理事会(FSB)が策定したガバナンス・アレンジメントに基づいて運用されています。現在、FSBがANNA DSB(Association of National Numbering Agencies Data Service Bureau)をサービスプロバイダー(SP)として選定し、取引当事者からのリクエストに応じてコードを付番し、参照データをライブラリで管理しています。
ガバナンス構造は複層的で、LEI-ROC(当局)-ISO(基準主体)-IRG(業界)-SP(業者)、その他関係当事者(情報ベンダー、TR、業界団体)という体制が構築されています。この複雑なガバナンス構造により、コスト増加や知的財産権の問題、UPIの粒度調整といった課題も指摘されています。
📊 重要な特徴:
日本では2024年4月から取引報告規制の改定が施行され、2025年4月7日からはUPIとデルタの報告が義務化されます。この導入時期は、他法域における導入時期との平仄を意識しつつ、本邦金融機関におけるシステム開発期間を十分に確保する観点から設定されています。
現在の報告体制では、従来の週次直接報告から取引情報蓄積機関(TR)経由での日次報告(T+2、XML方式)に一本化されています。金融機関は取引イベント時の報告に加え、時価・担保に関する日次報告も必要となり、LEI・UTI・UPIを含む国際的識別子の利用が求められています。
🔧 システム対応要件:
UPI付与基準の実装において、金融機関は2つの主要なアプローチを想定する必要があります。第一に、取引を想定する商品のUPIを取得し、自社開発システムに設定して取引報告を行う方式です。第二に、MiFIDⅡのようなリアルタイム報告要件に対応するため、取引詳細内容をベンダーに提供してUPI設定をアウトソーシングする方式があります。
商品分類においては、各国の商慣行が異なるため、日本独自の実務を踏まえた商品分類の議論が必要となる可能性があります。また、UPIについては商慣行の違いにより、実務を踏まえた商品分類を日本独自で検討しなければならない場合があります。
データ品質管理の観点では、完全に網羅的かつ正確な報告を行うことは困難であるため、データモニタリングおよび不正確なデータを発見した際の改善プロセスの構築・運用が重要となります。第三者による報告データの検証アプローチも、正確性を担保するうえで有効とされています。
⚠️ 運用上の注意点:
UPI付与基準の将来展望として、国際的な規制調和の観点から継続的な改定が予想されます。2023年12月に米国商品先物取引委員会(CFTC)が新たな規制改定草案を公表しており、今後も改定が見込まれています。香港金融管理局(HKMA)をはじめとする他の法域でも改正作業が進行中です。
サービス提供者による付加価値サービスについては、ユーザー側にUPIテクニカル・ガイダンスで求められる範囲に限定したサービス利用の選択自由が確保されるのであれば、付加価値のある商品やサービスの提供は許容されるとの見解が示されています。これにより、サービス提供者の事業収益性向上と制度の継続性確保が期待されています。
ISO規格では、2021年11月29日にISO 4914(固有商品識別子)が正式公表され、国際標準としての地位が確立されています。デジタルトークン識別子(DTI)との併用も認められており、証券でもあるデジタルトークンについてはDTIとISIN両方の付番が可能です。
🌐 今後の展望:
グローバルで活動する金融機関においては、国際的な規制・当局の動向を把握し、継続的にシステムを改修する態勢を構築する必要があります。規制順守のためには、関連システムの開発や業務フローの整備に加えて、報告データをモニタリングし、不正確なデータを発見した際に適切に社内でエスカレーションされるガバナンス態勢の整備も重要な要素となっています。